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【最終回】第12回 これからのマーケティング(3) 顧客中心マーケティングへの原点回帰

 これまで「顧客中心マーケティングへの原点回帰」と題してコンサルタントとしての経験から問題提起、マーケティング変革の視点などを紹介してきた。最終回の今回、改めて「顧客中心」と掲げた意味合いやコンサルタントとしての思いを整理し、結びとしたい。

「顧客中心」と掲げた背景とは

 そもそもマーケティングは顧客を獲得し、維持し、拡大することで、企業存続の基盤をつくることがその使命である。言い換えれば、顧客を理解し、価値を創出し、価値を届けることをやり抜く機能であるとも言える。したがって「顧客中心」は当たり前のはずである。

 しかしながら「顧客中心」は当たり前であるがゆえに、各企業の中で十分に議論されてこなかった面がある。日本経済が、古くは高度経済成長期、そして1980年代のバブル期など景気には波こそあれ、基調としては成長・拡大を続けてきた中で、本当の意味で「顧客中心」を考え抜かなくても企業は成長を続けることができたのである。これは日本に限らず欧米も同様であり、市場が拡大している中では、あえて「顧客中心」と言わなくとも企業サイドの観点からの改革を重ねることで成長が実現できた実態がある。

 その意味で、日本企業が本当の意味で「顧客中心」への転換を求められたバブル期の終わり以降であろう。ある意味で根拠のない成長を続けてきた多くの企業は「ゼロ成長」に直面し、市場が大きくならない中で自社の成長を目指すという初めての課題に取り組むことになったのである。この転換点であった1991年、JMACがJMAグループとして日本で初めて「CS経営」を提唱し、バブル後の未知の環境下で成長を模索する多くの企業がこの考え方に共鳴し、ある種の「ブーム」が巻き起こったという経緯がある。

 この「CS経営」のブームは、コトラーの著書における「マーケティング2.0」すなわち顧客中心のマーケティングのタイミングとちょうど符合する。つまりCS経営、マーケティング2.0の波の中で、日本企業は改めて顧客の視点から経営を見直し、顧客満足を高めることで成長しない市場の中での自社の存続と成長を図っていったのである。

 ではあえて今、「顧客中心」と言わなくてもよいのではないかという疑問も湧いてくるのではないだろうか。まさにそのとおりで、多くの企業が本当の意味で「顧客中心」なのであれば、私もこのコラムで掲げる必要も主張する必要もない。しかし、コンサルタントとして多くの企業のマーケティングの実態を見ると、なんとも顧客中心とはほど遠いという認識にならざるを得ない。したがって、あえて「顧客中心」と掲げた次第である。

「顧客中心」を阻む元凶

 ではなぜ、1990年代〜2000年代にかけて、CS経営のブームがありながら、また世界的にはマーケティング2.0のただ中にありながら、多くの企業のマーケティングが「顧客中心」から外れてしまったのか。この主因は、「マーケティング」と「CS」の分断にあると言える。

 CSというサイドから見ると、日本企業において「CS」は何か特殊な取組みのように受けとめられた傾向がある。たとえば、「CS推進部」という組織ユニットが存在する(存在した企業が多い)ことがその典型例である。企業サイドの観点から顧客を獲得し、売上を上げる活動とは一線を画すという意図で、CS推進部門を新設する流れができたと考えているが、25年経過した今、これがマーケティングとCSの分断を引き起こしたと見ることができる。当時のマーケティン部門はまさに企業サイドからのアプローチが中心で、顧客中心とは言いがたい例も多数見られた。それがゆえにCSとマーケティングを別物と考えることにつながってしまったのである。

 しかしながら、本来、CSはマーケティング機能の一部とも言えるし、マーケティングの上位概念がCSだと位置づけることもできるものである。どちらも目的は、顧客を生み出し、維持し、拡大することであり、そのアプローチとしてCSはあくまでも顧客満足を軸に据えるというだけのことである。したがって、CSは(後にコトラーが位置づけたように)マーケティングの姿のひとつだと捉え、マーケティング部門のミッションとして位置づけられていたらと残念に思わざるを得ない。

マーケティングが矮小化している

 一方で日本においてマーケティングが、従来からきわめて狭い役割で捉えられてきた面も無視できない。いろいろな企業の方に「マーケティング部の役割は何ですか」と問うと、「販促やプロモーションですね」であるとか「販売チャネル強化をやっています」といった「売るための情報発信や体制づくり」との答えが多い。もしくは「セミナーで集客して関心がある企業を見つけるところまでがマーケティングで、その先は営業ですね」といった企業もある。本来のマーケティング全体から見ればその1割にも満たない機能をもって、「わが社のマーケティングだ」という企業も多いということである。

 本来のマーケティングは、多くの企業において、研究・開発、設計、製造、広報、営業企画、営業、アフターサービスなどじつにさまざまな部門に分散している。分散していること自体は問題ではないが、「では、わが社のマーケティングとは」という問いに実は誰も答えられないという状態が問題なのである。CEO、CIO、CTO・・・などさまざまあれど、CMOが誰か明確にされている企業は非常に少ない。百歩譲ってCMOが誰かに任命されていなくても、企業の中でCMOの機能がどのように設計され運用されているかが明示されているなら問題はない。しかし多くの企業で、「マーケティングとは何か」を明快に答えられないのが現実である。多くの企業において、マーケティングは真のマーケティングではなくマーケティングというものが非常に矮小化されてしまっているのである。

マーケティング変革をどこからはじめるか

 このように真のマーケティング不在の実態の中で、誰がどこからマーケティング変革をはじめるべきか。これは理想を言えば「トップから」ということになる。マーケティングはまさに事業戦略の根幹をなすものであり、「顧客と価値」の定義自体が自社の競争力の源泉であるからである。とはいえ、企業の中で「トップ自身変革してください」と言うことは困難である。そんな提案をしても「うちの社員はすぐ他責で考える」と叱られるのがおちである。となるとマーケティングに関わる皆様や、われわれコンサルタントにできることは何であろうか。さまざまな情報発信や、さまざまなマーケティングに「関連する」取組みを通じて、トップ層に対して働きかけていくこともそのひとつであろう。しかし、トップに働きかけるというチャンスは得がたいものであるし、トップが自ら変革するのを待つだけでは芸がない。

 となると、どのような手があるだろうか。もしあなたがマーケティング部門のメンバーならば、今までは関わらなかった商品開発に積極的に関わり、顧客視点から意見していくことにトライしてはどうか。もしくは、いつものニーズサーベイをやめて「行動観察」を取り入れてみることも価値があるかもしれない。いつもは広告代理店に任せてしまっているプロモーション施策のアイデア出しを、自社が顧客や市場と接しながら、もがきながらやってみるべきかもしれない。本で読んだが実行したことがないペルソナを実際に検討してみることがヒントになるかもしれない。他者の思いつきを頭ごなしに否定するのではなく「ではやってみようか」と言ってみるだけでも視界が開けるかもしれない。マーケティング部に着任間もないなら、売れているマーケティングの本を全部読み、自社のマーケティングの「あら探し」をしてみても面白いだろう。今までルーティンでやってきたマーケティングの業務について、すべてて「なぜ」と問いかけるのもいいだろう。

 少なくとも、何か変革し「はじめる」ことしか、実務家である皆様、そしてわれわれコンサルタントにはできないのである。何か変革すること、ただし手当たり次第ではなく、あくまで原点である「顧客」を軸に取り組んでみてはどうか。

 そして、顧客中心の本当のマーケティング変革を「はじめる」なら、JMACは必ずやお役に立てると確信している。ぜひ一度声をかけていただけたら幸いである。

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