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従業員一人ひとりとチームが力を発揮できる状態をつくるー人・チームのエンパワーメントを実現する試みー ~中堅・中小企業の改革物語~

2018年8月28日

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人・チームのエンパワーメント

T社の幹部との対話・議論の中で「組織としての方向性はわかっているが動き出せない、動けない。動きが継続できないことが多いんだよね。」という悩みを聞いた。対話・議論している経営幹部Aさんは150人規模の会社の力を高め、働き甲斐のある場にしたいという思いを持っている方であり、会社の人材・組織改革のキーパーソンである。

筆者は人材・組織の変化・成長を促進するマネジメントコンサルタントとして、Aさんから様々な相談を受け、人材・組織の変革実践の支援を支援している。支援の中で「動きたいけど動けていない」という悩みが多いことに気づかされる。今回は「動きたいけど動けていない」から「動ける状態」にするために挑戦した事例を参考にして、従業員一人ひとりとチームが力を発揮できる状態づくりを考えていきたい。

人・チームが「動ける状態」になっていくための理論は世の中にあるが、中でもコンサルティング実践の教訓から、人・チームのエンパワーメントが重要だと考えている。

エンパワーメントとは、権限移譲など関係性から見た定義もあるが、心理的な側面での「人・集団が持っている力を発揮できる準備ができている状態および力が発揮され活性化された状態の実現」とも捉えることができる。

心理的なエンパワーメントの構成要素は、①効力感、②貢献感、③有意味感、④自己決定感の4つと考えられる。

①~④を端的に表現すると、


自分(自分たちは)できると思えて、
周囲に役に立つことができ、
行動の意味を自分なりに理解し、
自らが行動を決めている

ことである。

言葉で表現すると、なんだ当たり前じゃないか、と思われるかもしれない内容である。この当たり前を実現するための関わり、仕掛け、試みが簡単そうで簡単ではない。人・チームのエンパワーメント実現に向けた関わり、仕掛け、試みをT社の事例をもとに読者の皆さんと考えていきたい。


問題点、課題は自分達の言葉で表現し、表明する <④自己決定感を高める>

T社は従業員150人規模のシステム開発を行う企業である。お客様からの要望が日々寄せられて業績は悪くないが、組織は全体的に日々の業務対応で手一杯であり、職場には疲弊感が強く漂っている。

そんな状況の中、Aさんから人・組織をよりよくしたいという相談を受けた。

まずは現状を知るために様々な方々に今の状況をインタビューし、現場も見せていただいただきながら現状を認識し、課題を明確にすることから始めた。

管理職の方々に話を聞く中で、「メンバーからの発言、提案が少ない」、「意見を聞いても反応がなく、結局われわれ管理職が報告を決める」、「メンバーに考える力が足りないから鍛えないといけない」といった共通の意見が見えてきた。

「本当に意見はないのか?」、「考える力が足りないのか?」という疑問を管理者に投げかけると、「...そう思いますが...」という反応が返ってきた。そこで筆者は一つの提案をした、それは"メンバー自らが発言する場をつくる"ことである。

その提案に対して管理職の反応は様々で、「ぜひ考えや想いを聞いてみたい」、「本音を出されても解決できるかわからないから困ってしまう」というものもあった。その様子を経営幹部Aさんがきいて、「管理職の考えもわかるが現実を見ないと手が打てない、従業員メンバーにきいてみよう」という判断を下した。

インタビューから約1か月後『ぶっちゃけ対話』と銘打ち、従業員メンバーと管理者も参加する対話・議論の場を設定した。ぶっちゃけという表現が気になる方もいるかもしれないが、自分の考えや想いを率直に出せる場にするためにあえて使う表現である。しかし、『ぶっちゃけ対話』と銘打つだけで意見が出るようになるのであれば苦労しない。経営幹部や管理職層からも本当に意見がでるのか?という懸念がでる中、メンバーが意見を出しやすいようにするために仕掛け、工夫を取り入れた。

意見を出しやすくするための工夫 <①効力感&②貢献感を高める>

仕掛け、工夫の一つは、対話・議論の場に大切にしたいこと(グランドルール)を設けることである。例えば


【ルール1】
今日の発言は"他責OK"とする。自分が発言したからには解決策が必要...と、発言を躊躇するケースがあるが、そのような参加者の意見出しのハードルを低くする。解決策は後でみんなで考えればよい。

【ルール2】
だれが発言したか、"犯人捜し禁止"とする。普段発言が少ないメンバーが発言するためには安全な場である必要がある。安全な場とは、発言者が責任を取る必要が無い状態、責任を押し付けられない状態のことである。

【ルール3】
個人攻撃はしない。個人攻撃は組織の中に警戒心を増幅するためである。マネジメントの問題点は特定のマネージャー個人の問題点だけではない。組織の問題点として意見を出す場にした。

また、意見を出しやすい場をつくるために、近い年代で4~5名のグループをつくり、上下関係のない場で話しができるようにした。

実際の『ぶっちゃけ対話』を実施したところ、最初は様子見の雰囲気もあったが、徐々に意見がでてくるようになり、「残業が多すぎ」、「人間的な生活をしていない」、「経営層はお客さんの言いなり」などなどそれぞれの想いが出始めてきた。

同じ部屋にいる管理者グループは、最初は他のグループがどんな意見を出すのか気になっている様子であったが、「やってられない」、「なんでもかんでも管理者に責任を押し付けられる」、「メンバーはもっと自分の意見を出してほしい」、「管理者は親ではない」などなど想いを吐露するようになった。

あっという間の午前中の出来事であった。意見を出せる場への工夫、大切にしたいこと(グランドルール)が効果を上げた。意見を出せる場で自らが発言した意見を隠すこともなく、自分たちの意見として自分たちの意思で貼り出された。

今までは管理職から指示されて提出することが多かったメンバーが、自ら意見を出し仲間に表明する、自分たちはやればできるという心理的エンパワーメントの要素である①(自己)効力感を高める第一歩になったのである。

また、ぶっちゃけ発言が共感を呼んだり、周囲に気づきを与えたりすることを実感し、自分自身が周囲に貢献できる存在であることも気づくことができ②貢献感を体感する機会にもなった。

驚きを隠せないのは経営幹部、管理者達である。「単なる愚痴だよね」といった冷めた意見も当然でるが、「こんなことを思っていたのか」、「なんとなくわかっていたけどやっぱりそう思っていたのか」、「いろいろなことをメンバーはよく見てるな~(苦笑)」、「はっと、ドキッとさせられる意見あるよね(冷や汗)」など、メンバーに対する見方が変わっていく瞬間でもあった。

他責から自責への転換 <①(自己)効力感を高める>

『ぶっちゃけ対話』の場で職場の問題点、課題について、自分たちで他責で出せたことで、すっきりした感覚を持つメンバーが多く出てきた。「こんなこと言える場は今までなかった」、「正解の発言のみを求められてきた」など、今までにない体験に高揚するメンバーもいた。

しかし、このままで終わってしまったら、ただ言いたいことを言って終わりである。

そこで次の日の対話・議論の場は、他責で出した問題点、課題を自責で考える場に転換したのである。

自責とは、自分たちで解決できることはないか?何かできないのか?と、自分たちの持っている力がどのように使えるのかを考えることである。

『ぶっちゃけ対話』の問題点を引き起こしているパターンや習慣をみていく『負のパターンの見える化』を実施したのである。パターンというと難しく考える傾向があるため、起きている問題点の原因を絵で描きだすなどの手段で、現象を見える化する。絵という手段で描くことで言葉では伝わりにくい問題の原因が見えてくることがある。原因が見えれば手が打てるという考え方をメンバーと共有し、見える化を促進すると、異様な盛り上がりを見せてきた。

「こんな風に描いたら伝わるのでは」、「もっとこういう表現があっているのでは?」といった活発な対話・議論が始まった。この様子に前日驚いた経営幹部、管理職メンバーは更に驚いた様子であった。「メンバーのみんなはこんなに元気を持ってたんだな」と経営幹部Aさんがつぶやいた。

描いた負のパターンは具体的な状況が見え、経営幹部や管理者への率直なメッセージとなって伝わり、問題であることを忘れるかのような笑いが起こってきた。問題に心配といった栄養を与えてさらに問題を大きくするのでなく、問題と原因を見える状態にして、みんなで解決する状態をつくることが重要であることを体感する場になった。

問題を正面から見つめ、笑い飛ばすことができる組織は強くなれるとコンサルティング経験から強くそう思う。

笑い飛ばした後は、自らがまず何を行動に起こすか、ファーストアクション(すぐやること)を設定し、仲間と共有した。他のひとから決められたものではない、自ら決めた、自ら実行したい、今の力を活かしたファーストアクション設定により①(自己)効力感を高め、④自己決定感も高めることにつながった。自責で考えることで自分たちの持っている力を再確認する場になったのである。

この時点で経営幹部、管理者層のメンバーへの見方が大きく変わり、期待が膨らんできている様子が筆者との対話のなかで感じることができた。

仕事、自分自身の存在の意味を理解する <③有意味感、②貢献感を高める>

『ぶっちゃけ対話』で問題点、課題が見え、『負のパターンの見える化』などで変えるべきパターンを認識し、自分なりのファーストアクションを設定し、行動し始めたメンバーにとって、もう一つ気づく必要があるのは、仕事の意味、仕事を通じての貢献の認識である。

ファーストアクションを決めて動き始めると一時期は気持ちや意識が高まり、問題点、課題への解決、パターンを変える努力を行うが、継続することが難しくなる。行動を継続させるためには、自分の行動の意味、なんのためにこの仕事をしているのかを理解する必要がある。自分視点の仕事、行動の意味に加えて、周囲への影響つまり貢献感を高めることも必要である。自分としての意味と周囲への影響・貢献が行動の継続性の源泉となりえる。

ここで行ったのは、管理職やチームリーダークラスが、メンバーに対して、今の仕事の目的、意味、影響範囲、貢献していることを語る場『我々の仕事の起源』を実施したのである。

今までは仕事における作業指示がほとんどであり、この仕事、作業がどんな意味を持っているのか、お客様、世の中にどれだけ貢献するのかを語ってもらったことがない状態であった。お客様からどのような期待が寄せられ、お客様のどのような課題解決に貢献しているかなど、この仕事、作業を実施することで貢献していること、貢献範囲を語ることもほとんどない状況であった。

このことを問題として捉え『我々の仕事の起源』を実施したところ、若手メンバーから自分の仕事の意味や貢献していることが初めて分かったといった声が多くあがり、中堅メンバーからは仕事へのマンネリを感じていたときに目的、貢献できることを考えるきっかけとなったという発言も出てきていた。管理職、チームリーダークラスからは伝えているつもりになっていた、という発言も出るようになった。

経営幹部、管理者の関わり方から変化をつくる<①(自己)効力感、④自己決定感を高める>

『我々の仕事の起源』から仕事の意味、影響感を感じて、メンバーとして、そしてチームとして力を合わせることにも意識が向けられるように職場も変化してきた。ここから更に、人・チームの力を発揮できる準備を整える、まさにエンパワー状態をつくっていった。人・チームが力を発揮できるエンパワー状態を作るために、T社が行ったのは経営幹部、管理職層の意識変革である。経営幹部、管理職層の関わり方の変革が職場を更に良い場にしていった。

経営幹部、管理職層の意識変革、関わり方の変革がエンパワーメントの要素である。

①(自己)効力感を高めるために、管理者として、メンバーが自分はできると思えるようになる経験機会と、経験できるようになる力が出せる準備(教育、トレーニング、日々の業務での関わり)を整えた。メンバーが自ら行動を決める意思決定を促す関わり方④自己決定感を促進する効果も生んできた。

組織のなかで影響力のある経営幹部、管理者の意識、行動を変革していった。経営幹部、管理者からは意識、行動変革に対して「今さら変われない」、「変わる必要がない」といった反応であったが、

  1. 話の"きき方"
  2. 周囲のメンバーや自分に対する"み方"
  3. 認知・称賛とさらなる成長への率直な提案による"効果的なかかわり方"

などをワークショップという形で高めていった。

ワークショップで理論の理解と演習などでの体感や、ワークショップと次のワークショップとの間での職場実践と気づきレポートの提出などの実践と体感、仲間とのペアでの実践振り返りの仕組みなども取り入れて徹底的に意識・行動変革を進めた。

効果は大きく、職場での発言や意見が増え、自ら行動を決めて提案するメンバーも増えてきた。エンパワー状態をつくっていくために組織内で必要な、絶大なる信頼関係が築けつつあるのを筆者も感じている。

経営幹部、管理者の意識、行動変革がメンバーによい影響を与え、メンバーもワークショップに興味関心を向けるようになっている。

まずは経営幹部、管理者が変わろうとしなければメンバーは信じない。メンバーは経営幹部、管理者をよく見ている、自分の将来の姿をイメージしている。組織が力を発揮でいる状態を目指すのなら経営幹部、管理者が自らを変えること、それが大きな課題になると考える。

今回の内容が皆さんの人やチーム、組織が力を発揮できる状態であるエンパワーメントの実現の一助となれば幸いです。

【執筆】

笠井 洋
エンパワーソリューションセンター長チーフ・コンサルタント

企業において創造性発揮が多く求められる、新事業開発創出のご支援を中心活動領域として、目標を達成の成功要因として"「個人」、「チーム」の力を最大発揮"に着目し、様々な業界において経営活動のコンサルティングを実践。
コンサルティング実践の中から培った対人スキルなどを体系化し、組織向けにリーダーシップ研修、チームビルディング、ビジネスシーンおける対人スキル研修およびワークショップ(ファシリテーション、コーチング、コミュニケーション、プレゼンテーションなど)、マネジメントスキル・マインド研修なども多数実践中。

※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。