グローブライド株式会社

みんなに"見える化" チーム設計への大改革

設計者一人ひとりが個人商店のような働き方は終わりにし、企画部門、技術部門、設計部門など全員を巻き込んで「世界No.1ブランド」という目標に手が届く!

「地球を舞台にスポーツの新しい地平を切り開いていく」。社名に込めた決意だ。2009年、ダイワ精工は社名を変え「グローブライド」が誕生。フィッシング、ゴルフ、テニス、サイクル部門からなる総合スポーツメーカーである。今回の主役はフィッシング事業部。国内市場が縮小しつつあるなか、拡大戦略という目標を掲げ、設計チームにメスを入れた。なぜ設計部門の改革が必要だったのか。(写真右:取締役 フィッシング生産本部 ロッド製造部長 鈴江浩康さん 写真左:フィッシング生産本部 ロッド製造部 ロッド設計管理課長 大田勲さん)

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500点もの新製品を出し続けるために

vol69_globeride_key_01.png国内の釣り人口が減少する一方、ユーザーの嗜好が多岐にわたる釣り市場。そのリクエストにこたえるためには、商品を改良し、新しいものを世に出し続けなければならない。効率化のために着手すべきことの課題は以下の4点である。

  1. 設計業務全体の見える化
  2. 全員で連携
  3. 設計インフラの整備
  4. 設計者全員の積極的な参画

市場は減少、売上は拡大 課されたミッション

vol69_globeride_key_02.png釣りの国内市場は年々、加速度的に減少傾向だ。なのに製品数が増加しているのはなぜか。それは、個々のニーズが多様化し、顧客の求める設計が多岐にわたっているからだ。

グローブライドのフィッシング事業部は、世界的シェアのトップを走っている。しかし、それは本当の意味でのナンバーワンではないという。

「海外には、ローカルの小さなメーカーが山ほどあります。安価なものから、地域性に特化したものまで。釣りは文化でもありますから、伝統の道具というものも、まだ存在しています。私たちはそれらの市場を獲得したい。本当の意味でのトップを取るために、新製品のアイテム増は避けられません。とはいえ、リソースは限られていますから、効率を上げざるを得ないのです」(ロッド製造部長 鈴江浩康さん)。ではどこにメスを入れればいいのか。鈴江さんは、設計チームの改革を決めたという。

「革新的なアイデアが求められ、世界最高水準の技術と品質を形にするミッションを抱えている設計者たちですが、現状は我流のやり方で業務を進めているため効率が悪い。何より、1人約30アイテムを並行して動かし、日々の業務に疲弊している彼らに、素晴らしいアイデアを求められるのか。設計部門に生産性を求めざるを得ませんでした」

そこで、JMACにコンサルティングを依頼することになるのだが、鈴江さんとJMACの出会いは7年前に遡る。当時、タイの工場立て直しの命を受け、赴任した鈴江さん。現地で「某二輪メーカーの工場を立て直したコンサルティングファームがある」と噂を聞きつけた。そこで、JMACタイのコンサルタントが製造部門の改善に入り、見事に生産性を上げたという実績があった。グローブライドはこれまで外部リソースを使わない方針だったが、タイの実績があり、ロッド設計課にコンサルタントが入ることとなった。

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▲商品点数が2,000点を超えるフィッシング事業部

設計者全員の頭の中をマニュアル化する

vol69_globeride_key_03.png担当コンサルタントの渡部訓久は「設計業務全体の見える化」「全員で連携」「設計インフラの整備」「設計者全員の積極的な参画」という4つの課題を掲げ、改革をスタート。

まずはアンケートを実施。すると、「担当のアイテム以外の仕事(改革業務)をしたら、損したような気分になる」「過去に何度もやりました」「そんなこと手伝っていたら納期が間に合わない」という回答があった。想定内の回答ではあったが、管理者クラスが「本気でやろう!」という意識に変わったという。

次に着手したのは、500点以上の新商品アイテムすべてにどの改善策を行うか、壮大なマトリックス図を作成。業務を自動化できること、ツール化できることをそれぞれ見極めた。その結果、これまで気づかなかった重複ロスや、やり直しなどの無駄が減り、第1ステップを完了。

今回、もっとも重要かつ効果を上げたのが第2ステップの「見える化」による設計の質向上だ。ロッド設計課には設計者が十数人いるが、スキルや経験値が異なるため、これまで各人のやり方で個人商店のごとく設計業務を進めていた。

「生産性を上げるには、たとえば誰がつくっても最低でも85点くらいはできてほしいし、全員同じ基礎からつくるべき。ただし、ベテランもいれば新人もいる。さらに、釣り竿の設計は、メカ設計ではなく剛性設計なのでゼロからというのはあまりなく、ちょっと穂先を硬くしたり、曲がりを調整したり、強度を2割上げる......というような作業が多い。ですから感覚的な仕事といえばそうかもしれません」(鈴江さん)。とはいえ、500点もの新製品を手掛ける物量はかなりのものだ。我流の進め方ではロスもそれなりに生じてしまう。そのため設計者全員の頭の中にあるものを、すべて出してもらい、整理した。失敗事例や、うまくいったノウハウ、やらなくていい作業など、設計実務を進めるための情報を各人から集めて整え、精度の高いマニュアルを完成させた。

改善前後でパワーシフトに変化

下の図は、業務効率化前と後を比較したものだ。「昨日の仕事」とは、やり直し作業、設計変更などにかかる時間。「今日の仕事」は新製品の設計、まさにミッションだ。そして「明日の仕事」はさらに創造的な時間。先行開発や改善活動にかける時間である。「昨日の仕事」は本来なら終わっているもの。それに再度時間を取られるのはストレス以外の何物でもない。

改善イメージ

本来なら、設計を本格的にスタートする前のインプット情報(マニュアル)の精度を上げないと、着手すべきではない。なぜなら、足もとが危ういところからスタートすると、やり直しのロスが生まれたり、製造までたどり着いても強度が弱かったということもある。そうなると、発売が遅れるなど、重要な損失にもつながりかねない。それを取り戻すのは、設計者個人の範疇を超える。今回の取り組みで、ロスの大幅減につながった。

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▲1mmのゆがみも許さない
検品作業こそ一流品の証

個人技で乗り切らない周囲を巻き込んで

vol69_globeride_key_04.pngロッド設計管理課長の大田勲さんは元設計者であり、現在は改善プロジェクトを取りまとめる責任者だ。

「JMACさんのアンケートの後、私たちは個別に面談を行いました。新しいものをつくりたい、という意識はみんな高いんです。しかし、その時間がないというのが現状。会社の売上拡大の目標もさることながら、業務の効率化は必然だと感じました」(大田さん)

コンサルタントの渡部は、属人化している非効率を変えるべく「チーム設計」にこだわった。
「企画、技術、デザイン、設計部門など、それぞれのチーム間で風通しを良くし、コミュニケーションがとれるように『チーム設計』という考え方に変えてもらいました。まわりの人同士で助け合える構図です。連携をとりながら業務を進めるため、ミスがあっても早く発見されます。個人技で乗り切らない。誰がやっても成果が出るようなお膳立てはどうすればいいのか。その対策の1つに『大部屋ミーティング』を導入しました。みんなで成果をお披露目しあったり、報告したり。あるいは自慢しあったり。これは個人商店から脱却する大きな施策になっています。その結果、良い刺激を受け、質とスピードが上がりました」(渡部)

改善活動を始める前にとったアンケートの中に、「日常業務に忙殺されており、それ(改善)どころではないという雰囲気」という設問がある。開始前は50%がYESと答えていたが、1年後の回答は5%にまで減少。社員の意識が大きく変わった結果である。

改善をやりきって次なるステージへ

コンサルティングの導入は、社員のモチベーションにつながっている。時間がたって、元に戻っては意味がない。改善施策が習慣化するために、定期的にコンサルタントと行うミーティングは欠かせないという。

「本来なら、自分たちがつくった製品を持って大海原に釣りに出かけたいじゃないですか。そうなるために、JMACさんにはこの取り組みを、最後まで一緒にやりきってほしいですね」と、鈴江さんは最終ゴールのイメージを描いている。


JMACコンサルタントEYE(担当コンサルタントからの一言)

渡部訓久(シニア・コンサルタント)

個人技で乗り切らない。誰がやっても成果が出るようなお膳立てはどうすればいいのか。即効性はありませんがボディブローのように効いてきます。

3つのポイント

1 改革シナリオの作成
業務効率化成果を何に使うか? 将来のありたい姿を策定し、設計者全員で共感を得ながら活動を進めることが重要です。

2 大部屋ミーティング
企画、技術、設計各部門の連携を図るため、それぞれの改善活動業務内容を報告しあえるような場を月1で実施します。

3 設計の足もと固め
設計実務を進めるためのインフラ整備。設計に必要な情報やノウハウ、失敗事例などの情報を整理して、オープンリソースにします。

改革スタッフの組み方

階層別にミッションを掲げ、各人が遂行すべきことを明確にします。

  • 部課長クラス:活動企画立案、後方支援
  • リーダークラス:活動展開実施、進捗管理、成果責任
  • 実務者クラス:改善施策実践、成果出し

本稿は『Business Insights Vol.69』からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。