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「絶えざる開発の心」で未知なることに挑み続ける
〜ワンストップ・ソリューションで世界トップブランドを目指す〜

グローリー株式会社
代表取締役社長 尾上 広和 氏

グローリー株式会社は1918年(大正7年)に創業し、2018年に創業100周年を迎える。「絶えざる開発の心」を創業当時から大切に受け継ぎ、時代の要請に応える画期的な製品を次々と世に送り出してきた。2011年に代表取締役社長に就任した尾上広和氏は2012年、英国・タラリス社を買収し、グローバル展開に一気に加速をかけた。今回、新たなイノベーションを仕掛けた尾上氏に、100年続くグローリーのDNAの強み、そしてグローバル展開を図るうえでの苦労や喜び、今後の展望についてお聞きした。

「新しいものをつくり出したい」その思いはDNAとして脈々と

 鈴木:グローリーは1918年に創業し、あと2年余りで100周年を迎えられます。最初にグローリーが100年間大切にしてきたものやDNAについてお聞かせください。

 尾上:当社はもともと、電球製造装置の修理会社として従業員7名でスタートしました。当初は修理仕事だけで、経営が厳しかったため、次第に自社製品を持ちたいという思いが強くなり、さまざまな製品の開発に挑戦する日々が続きました。

 そのような中、大きな転機が訪れました。当時の大蔵省造幣局から「アメリカ製の硬貨計数機は大きすぎて使いづらく、メンテナンスもしにくいから、国産のモノをつくって欲しい」と開発依頼を受けたのです。われわれにとってまったく未知の製品でしたが「これに挑戦すれば、自社製品開発の新しい道が開けるのではないか」と即座に引き受け、数ヵ月の試行錯誤の末、1950年に国産初の硬貨計数機を完成させました。これが通貨処理機事業へ参入するきっかけとなり、グローリーは新たな道を歩み始めました。

 その後、1953年には民間銀行向けの硬貨計算機を開発し、大好評を得て多くの銀行に導入されました。以降は通貨処理機事業を柱に成長し、技術革新を続けながら自動販売機やコインロッカー、硬貨包装機など、多くの国産初の製品を世に送り出してきました。

 この創業以来持ち続けてきた「絶えず世にない新しいもの、人の役に立つものをつくっていく」という思いは「求める心とみんなの力」という企業理念となり、今もなお企業風土・DNAとして脈々と受け継がれています。

姫路-東京の夜道をトラックで保守サービスの重要性を実感

 鈴木:尾上社長は1970年の入社以来「新しいものをつくり出す」という企業風土の中で、さまざまな業務に携わってこられたと思いますが、何かとご苦労も多かったのではないでしょうか。

 尾上:いろんな経験をしてきましたね。中でも思い出深いのは、営業を担当していたときのことです。従来の商流に乗らない新規市場で新製品を扱ったときのことですが、当時は姫路からのダイレクト営業・ダイレクト保守でした。製品は良かったのですが売るのがたいへんで、しかも製品が故障するたびにわれわれが夜中に姫路から東京までトラックを走らせ、修理に向かっていました。やはり、それなりの体制を整えてからでないと物事はうまくまわっていかないな、と感じたものです。

 そこから思ったのは、われわれが培ってきた販売・保守体制の中での一番の強みは保守サービスにある、ということです。顧客満足度は、品質・価格も重要ですが、故障したときにいかに早く対応するかで決まります。安心して使えることが一番大切なのです。

 そしてその後は、企画・開発・生産・販売・保守サービスまでグループ一貫体制の構築に努めました。今ではこれが、われわれの大きな強みとなっています。グループ内ですべてを行うため意思決定が速いのはもちろんのこと、メンテナンスをすることでお客様の使い勝手を知ることができ、次の開発に生かせます。この好循環が、さらなる顧客満足度の向上につながるのです。

 われわれは「グローリーを世界のトップブランドに」というグループビジョンを持っていますが、顧客満足度ナンバーワンになれば世界のトップブランドになれると思っています。

世界トップブランドを目指すグローバルマネジメントの流儀

 鈴木:かねてより積極的なグローバル展開を続けてきたグローリーですが、2012年に貨幣処理機大手・英国タラリス社を買収し、一気に加速をかけました。買収のねらいや、尾上社長のお考えになるグローバルマネジメントについてお聞かせください。

 尾上:私はこの買収で、タラリスが欧米で持つ「販売・保守サービス網」を活用し、海外事業の成長に弾みをつけたいと考えていました。

 タラリスは海外で一番の競合企業で、銀行窓口用入出金機で世界シェア4割を占め、世界22ヵ国に直販・直メンテナンス網がありました。子会社化してからは、タラリスが他社製品を納品していたところには自社製品を入れ、製品開発では技術交流を図りながら、それぞれの強い分野を伸ばしてきました。現地ニーズを見極め、顧客基盤の強化を進めた結果、現在はお互いにシナジー効果が出ています。

 しかし、グローバルでの統合というのはやはり難しいもので、最初の1年間はなかなか融合できず苦労しました。タラリスはイギリスの会社ですから、われわれとは企業風土や文化がまったく違います。日本人は中長期でものを考える傾向が強いのですが、向こうは短期で考えますし、根本の思想が違うのです。

 東洋と西洋の思想の違いも大きく影響しました。たとえば、日本人は会社に対する思い入れがあることが多いのですが、イギリスでは会社への思い入れはあまりなく、自分のキャリアアップのためならすぐ他社に移ってしまいます。一方的にやり方を押し付ければ優秀な人は去ってしまうのです。理解し合いながら、いかにモチベーションを上げて仕事をしてもらうか、というところで苦心しました。

 今はかなり融合しつつあり、次の段階に入っています。現在、当社グループは世界25ヵ国に現地法人を置き、100ヵ国以上の国々で事業を展開しています。世界各国のグループ社員が一丸となるために、共通の社員行動規準「グローリースピリット」をつくりました。8ヵ国語に訳して全社員約9000名に配布し、企業理念「求める心とみんなの力」のもと「"OneGLORY"を合言葉にみんなでがんばろう」と働きかけています。

サービス向上それは現場を知ることから

 鈴木:グローバルに販売拠点がある中で、これからも新しいものをつくり出していくために、社長として現場や社外の方の声を聞くときに工夫していることがあればお聞かせください。

 尾上:われわれはメーカーですから、とにかく「三現主義」--現場・現物・現実(現認)--を徹底しています。一部を聞いただけで判断すると間違うことがありますから、国内の支店10ヵ所には年2回ずつ行って直接話を聞くようにしています。

 現場では、昼は現地の幹部とミーティングをして、夜は若い社員も一緒にお酒を酌み交わしながら、ざっくばらんにいろんな話をします。そうすれば、現場でどんな問題が起きていて何に困っているのかを、つぶさに早急に知ることができます。事務所に座っていても、現場の良いことは入ってきますが悪いことはなかなか入ってきません。悪いことほど早く知り、事が大きくなる前に対処すべきなのです。現場サイドの困っていることをいち早く吸い上げ、対処していくことは非常に重要です。

 また、支店を回ったときには、銀行や量販店など地域のお客様のところに必ず顔を出して対話します。地域によって考え方が違いますから、直接現場に行って地域の情報を知ることはとても大切です。その情報を開発やサービス向上につなげることができますし、機関投資家と話をするときにも的確な受け答えができます。現場の実態を知っていると、何ごとにも自信を持って対処できるようになるのです。これは海外も同じで、アメリカやヨーロッパ、アジアには年1回ずつ行って現場の声を聞くようにしています。三現主義はとても大事です。

貨幣からセキュリティーへ培った技術で社会の安全に貢献する

 鈴木:企業理念「『求める心とみんなの力』を結集してセキュア(安心・確実)な社会の発展に貢献する」についてですが、貨幣という事業領域で特化してきた中で、安心・確実な社会というと、さらに事業領域が広がっていくイメージがあります。100周年に向かって、この企業理念のもとでの事業の拡大についてお聞かせください。

 尾上:私が好きでよく使う言葉に「本業を離れるな。本業を続けるな」というものがあります。これは三菱総研元会長・牧野昇氏の著書の一節で、事業を行ううえでの本質をよくついている言葉だと思っています。

 自分の事業とはまったく関係のないことに「これはいいな」とポンと手を出しても成功しないことが多いものです。かといって、われわれの場合、最初の硬貨計数機だけに固執していたら今はなかったでしょう。そこから技術革新を続けてコア技術である「認識・識別技術」と「メカトロ技術」を培い、硬貨包装機、スーパーのレジ釣銭機など、貨幣に関するところにはほとんど参入してきました。

 そして、この技術を活用して新たな事業領域への参入も進めています。たとえば、選挙投票用紙の開票は従来手作業で行われていましたが、漢字・仮名交じりの手書き文字を正確に判別する「認識・識別技術」と投票用紙を高速で分類・計数する「メカトロ技術」を駆使することで1分間に660枚の処理が可能となり、開票作業の高速化・省人化を実現しました。

 さらに今、力を入れているのは、紙幣の画像処理やそこから派生した生体認証、顔認証技術です。この顔認証は、マンションに住む高齢者の見守りサービスにも活用できるなど、まさに安心・確実のセキュリティーの領域に入ります。そしてわれわれは、このセキュリティー領域からまた何か新しい芽が出るのではないか、社会に役立つ新しいものをつくり出せるのではないか、そういった発想で挑戦を続けています。

チャンスを生かす「決断力」が会社の未来を切り拓く

 鈴木:最後に、尾上社長から次世代を担うトップ、経営幹部の方へ向けたメッセージをお願いします。

 尾上:私は経営者にとって大切なのは「企業風土をつくること」「継続力」「決断力」の3つだと考えています。

 まず、会社の根幹となる「企業風土」をしっかりとつくることが大切です。当社は「絶えず新しいものを開発製造すること」を企業風土としています。そうした確固たるものが1つでもあれば、強い企業体質が維持できると考えています。

 そして、何ごとにも「継続」していく忍耐力を持つこと。たとえすぐに芽が出なかったとしても、諦めればそこで終わりです。短期で成果が出るものもあれば、5年10年とかかる場合もありますから、長い目で見て辛抱強く継続していくことが大切です。これはビジネスの場面だけでなく、人材育成でも同じです。企業を支えていくのは人ですから、人をどう育てていくかが企業にとって一番大事です。

 日本の場合、減点主義になりがちですが、加点主義でモチベーションをうまく上げることが大切です。失敗や間違いは誰にでもあります。一度失敗すればそれが教訓になって、次は失敗しないように努力しますから、失敗のない人間より失敗をする人間のほうがむしろ育っていくのです。ビジネスも人材育成も、継続してこそ1つの大きな力になっていくのではないかと思っています。

 最後に、チャンスを生かす「決断」ができること。チャンスが巡ってきたときにどう決断するか、長年の経験に裏付けされた勘が非常に重要です。客観的な数値はもちろんのこと、最後は勘で勝負する、そういった実力を身につけるのです。当社で言えば、タラリスの買収で約800億円という巨額を投じるべきか逡巡しましたが、円高の追い風を生かせるこのチャンスは二度とないだろうと買収に踏み切りました。その後、芽は順調に育ち、あと数年で成果を収穫できるところまできています。この決断は正解だったといえるでしょう。またとないチャンスに巡りあったときにどう判断するかが、次の展開を決め、会社の未来をも変えていくのです。

 いろんなところに、いろんなチャンスがあります。それを察知するアンテナを常に張り巡らし、タイミングを逃さずチャンスをものにする。次世代のリーダーには、その経験値・決断力をぜひ身につけてほしいと思います。

【対談を終えて】鈴木 亨のひとこと

グローリーのDNAは新しいものを絶え間なくつくり出すチャレンジ精神にあると思います。尾上社長は自ら現場に足を運び、現場の実態を把握し、顧客および自社の課題を抽出しています。このフットワークがグローリーのDNAと結びつき新たな製品1事業を生み出していると感じました。また、チャンスを生かす決断力もまさにこの現場感覚からくるものであると確信しました。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.60からの転載です。
※社名、役職名などは発行当時のものです。

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