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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

第7回 「サービス化」から「サービス“業”化」へ

渡邉 聡

 前回、前々回で海外の状況としてイタリアの話やJMACの実態調査にもとづく日本企業の現状をお話ししてきました。今回は本コラムの主題に戻して第4回の続きとして話を進めていきます。

まずはモノ+サービスの「サービス化」

 第4回でお話ししたように、製造業のサービス化の主なパターンとしては下図のようなものが考えられます。

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 第4回では、まずモノを起点としたサービス化の方向性についてお話ししました。まず、たとえばロボットのようなモノそのものが新しい体験を生み出すことができれば、一つの価値創出だと考えます。もう一つの考え方は、従来のモノ+サービスの内容について、さらにストレッチさせた方向を目指すことです。従来のモノとの関係におけるサービスの中心は、保証サービス、メンテナンスサービス、問い合わせ対応といった製品に付随的な考え方でした。

 そういったサービスの考え方を広げ、モノ+ユーザーによる使いこなし度を高めるサービスを組み合わせる(たとえばパソコンやスマートフォンに対する使いこなし術の提供のような)ことや、モノ+ユーザー利活用度を高める積極的な支援(たとえばカメラメーカーが写真愛好家向けのコンテストや展示会を開催したり、食品メーカーがファンサイトを立ち上げ、新しい食べ方などの情報交換や交流をサポートしたりするなど)を展開していくことが考えらえます。これらは、既存ビジネスの延長線上としても比較的取り組みやすい領域です。

「サービス化」から「サービス"業"化」を目指す

 モノ+サービスの考え方をストレッチすることは、一つのサービス化の方向性ではありますが、やはりモノ起点のサービス化と言えます。本当の意味で製造業がサービス"業"化するためには、ビジネスモデルそのものを変えることも視野に入れる必要があります。今回は、それについてお話ししたいと思います。

 サービス"業"化を目指す場合、上図の下段にある白抜き数字の❶〜➓の方向性が考えられます(❶〜❽は参考文献[1]より)。これらの内容を少し見てみましょう。

❶川下産業への進出

 素材メーカーが加工業に進出するといった、川下(エンドユーザー寄り)産業へ業容を拡大することです。

❷製品売切りから消耗品ビジネスへの展開

 インクジェットプリンターのインクカートリッジやカミソリの交換刃など消耗品ビジネスと呼ばれるモデルが典型例としてあげられます。

❸製品売り切りからメンテナンスモデルへの展開

 コマツのKOMTRAXなど、保守管理で利益を上げていくビジネスモデルです。

❹製品売り切りからリース、レンタルモデルへの展開

 カーシェアリングやカーリースに代表されるように、「所有から利用へ」という流れの中で、金融業化していくモデルです。

❺中古品販売などがきっかけで品質保証部が独立、あるいは損害保険会社化

 中古販売業は対象物の「品質保障」をする事業者がその対価を得て営むという、いわば企業の品質保証部が独立事業化した形に近くなっていくビジネスという見方もできます。

❻ファブレスやプライベートブランド化で設計開発部が独立

 ❺の品質保証部門が独立事業化するパターンにならい、一部のSPAなどに見られるようなファブレス化にあたる、開発部門だけに特化したモデルもまたサービス化の一形態とみなすことができます。

❼製品を通して利用するソフト・コンテンツでの課金モデル

 携帯音楽プレーヤーやゲーム機などの専門端末ビジネスは、利用するソフトと再生するハードの関係が消耗品ビジネスと同じ構造になっていてコンテンツ課金で収益を上げるモデルです。

❽利益の製品価格回収から広告などの別も出る回収へ

 検索連動広告やメールの連動広告などは、広告主から料金を回収するモデルですが、その魅力が高い場合、そこにいたるまでのサービスをすべて無償化させるほどの力があります。



 私たちJMACでは、これらに加えて2つのサービス"業"化の方向性も考えています。

❾製品価格ではなく製品利用「量」への従量課金ビジネスへの転換

 たとえば、モーターを売って終わるのではなく、モーターの回転量によって課金するようなビジネスモデルが考えられます。

➓「ソリューション」提供ビジネスへの転換

 たとえば、工作機械を売って終わるのではなく、その機械を使って建築会社が実施しようとしていることや問題解決そのものへのトータルな支援を行うといったビジネスです。

 今回、製造業が真の意味でサービス業となる、あるいはその色合いを強めることを「サービス"業"化」と表現し、その考え方を紹介しました。これらは既存事業の延長戦では考えにくい場合もあり、ビジネスモデルそのものを見直す必要も出てきます。しかし、モノだけでの差別化が困難になり収益性が鈍ることが予想される場合、中期的な検討も迫られることになるでしょう。

【参考文献】
[1]川口盛之助、メガトレンド2015-2024 Vol.3、日経BP、2014

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