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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

第5回 成熟型社会における「製造業のサービス化」とは 〜ミラノでの反応から見えてきたこと〜

渡邉 聡

 私の所属するチームメンバーが、先日ミラノでいくつかの企業とディスカッションをし、現地企業や日本企業現地法人を招いたセミナーを実施してきました。テーマはまさに「製造業のサービス化」が中心でしたので、今回のコラムでは連載をちょっとブレイクして、このセミナーへの反応や企業訪問からの所感を紹介したいと思います。

「製造業のサービス化」への反応はイタリアと日本も同じ

 まずはセミナーの反応ですが、参加者の反応を一言で言うならば、イタリアも日本も抱える問題は同じという印象を持ちました。これまでお話ししてきたように、日本において製造業のサービス化を促す主な背景は「成熟におけるコモディティ化」と考えます。つまり、消費者・市場の成熟により、(良い)モノだけでは売れない、差別化が難しいということが、メーカーがサービス化を考えなければならない要因だと考えます。この点はイタリアも日本同様の先進国、成熟型社会という点を含めて同じでした。

 第1回のコラムでお話ししたように、製造業のサービス化とは『従来のように「モノを製造・提供して、それを消費した顧客から対価を得る」という考え方から「価値は顧客が経験したときに生まれるものであり、そのためにモノに加え何かしらのサービス的要素を含めて提供し、顧客と共に価値創りを行う」という考え方にシフトすること』であり、「経験価値」を重視し差別化していくことが必要だという点は、違和感なく受け入れられたと感じました。

 たとえば「厨房機器」をつくっているメーカーからの参加者は、「顧客である料理人が、わが社の道具を使って他の店ではできないような調理をいかに実現するか」という点が最大の関心事でした。またある参加者は「扇風機」を例にあげ、ダイソンの「羽のない扇風機」は生活にどういう影響を与え、どういう経験価値を生み出したのかが重要だと述べていました。このように、モノがどのような経験価値を生み出すかが焦点であるという点は共感を得られたと考えます。

イタリアでも注目された「顧客洞察視点」と「飛躍視点」

 メーカーが経験価値に着目し、「モノありき」のサービス化を考える際に、セミナーの中で一番関心が寄せられたのは、「顧客洞察視点」と「飛躍視点」でした(下図)。

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顧客経験を描く「顧客洞察視点」

 顧客洞察視点については、いままでも顧客を理解し、ニーズを踏まえて製品化を図ってきた「つもり」だったが、経験価値という発想まで深く考察できていなかった、という反省が聞かれました。言い換えれば、ニーズが大事だということは百も承知と言うつもりだったものの、もっと顧客の生活や顧客の業務そのものを深く理解する必要があるということでした。こうした反応はまさに日本と同じでした。

 参考までに、私たちの顧客洞察についての7つの視点をあげておきます。

①平均的・標準的ではない顧客を見る
②顧客ニーズを要素分解しない(文脈で理解する)
③最終目的以外の手間・作業を洗い出す
④評価や要望ではなく背景・実態に着目する
⑤想定と異なる使われ方・利用のされ方を見る
⑥強めたい関係、変えたい関係を見つける
⑦見られたい自分・見られたくない自分を想像する

 これらの視点も関心を持って受け止められました。

価値リファレンスから引き出す「飛躍視点」

 また「飛躍視点」については、「価値リファレンス」(後述)による強制発想などに関心が寄せられ、この点はやや日本とは異なる反応だと感じました。日本では、たとえば「価値を極める方向性をあげて、思い切った価値を考えてみましょう」と飛躍視点を説いても、「まあ、そういうトライもいいかもね」という程度の反応が多く見られます。しかし、イタリアでは「それはどうやるのか?」という具体的な質問や、その場で考えはじめるといった積極的な反応がありました。

 価値リファレンスについても参考までに私たちがあげている視点の例を記載します。

①上質を極める
②手軽さを極める
③当たり前を取り入れる、当たり前を捨てる
④顧客の先行投資をゼロにする
⑤漠然とした不安を解消する
⑥Will(意思)やLog(記録・記憶)を握る
⑦真剣に社会に役立つ

 今回はミラノにおける「製造業のサービス化」への反応を紹介しました。日本やイタリアに限らず、「成熟」がキーワードの国には共通にあてはまる部分が大きいと考えます。また、成熟化するスピードが加速し、より多くの国が今後検討していくテーマになる、そう感じました。

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