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国内の成熟市場で成長するために

第6回 「ニーズ後追い型企業」が成熟市場で成長し続けるには

寺川 正浩

 前回は消費者の意識・行動の変化への企業の対応として、「ニーズ創造型企業」「ニーズ発掘型企業」「ニーズ後追い型企業」の3タイプがあることをお伝えしました。

 1つ目の「ニーズ創造型企業」は、新たな商品やサービスを仕掛けて、消費者の意識や行動の変化を促していく、ニーズを生み出していく企業です。
 2つ目の「ニーズ発掘型企業」は、消費者の行動・意識の変化に敏感に気づき、それらの変化をニーズとして顕在化させるために何らかの仕掛けをしている企業です。
 そして3つ目の「ニーズ後追い型企業」は、潜在的なニーズが顕在化し需要が形成されたニーズに対応していく企業です。

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「ニーズ後追い型企業」は広く周辺業界に反応すべき

 「ニーズ創造型企業」や「ニーズ発掘型企業」を標榜する企業は多いですが(言い回しは別にして)、実際は多くの企業が「ニーズ後追い型企業」に該当すると感じます。もちろん、「ニーズ創造型企業」や「ニーズ発掘型企業」に対しては、勝ち組の印象がありますが、「ニーズ後追い企業」が負け組というわけではありません。

 意図的に、ニーズ後追い型の戦略を掲げている企業もあります。消費者にフィットするかどうかわからないリスクは最小限に抑さえ、フィットしたとわかれば素早く対応していく企業です。たとえば、大型ショッピングセンターでいつも賑わっているアパレル企業のハニーズは自他共に認める「ニーズ後追い型企業」のようです。いわゆるイノベーターには一切振り向きもせず、イノベーターから裾野が広がり流行が確実視されたファッションに対して素早く対応し、無駄のないオペレーションでシェアを拡大してきました。

 では、意図的・戦略的ではないにせよ、「ニーズ後追い型企業」はどうやって国内の成熟市場で成長し続けていけばよいのでしょうか。

 ハニーズの戦略にも通じますが、「消費者の潜在的な行動・意識の変化に気づき反応し始めた企業の取組みに反応する」ことが必要なのだと考えます。加えて、シームレス化している今の国内市場においては、「自社の業界に限定することなく、周辺業界について広く反応する」ことです。広く反応することで、自社としてどこにチャンスがありそうか、仕掛けるべきかがしっかりと見えてくるのではないでしょうか。言うまでもなく、仕掛け方は異業種との取組みや新たなチャネルの活用など、自社だけの取組みに限りません。

 そしてこれまでの話は、ダイレクトに生活者と接しているB to C型の企業だけに留まるものではありません。川上を主戦場としているような消費者接点の少ない企業も変わり始めています。

川上産業でもB to C業界の動向にアンテナを張る

 今や鉄鋼・石油・繊維・ガラスなどを扱う素材メーカーは、素材だけの扱いではなく中間部品や最終部品の製造まで領域を拡げ、売上げや利益率を伸ばしています。まさにボーダレス化する国内成熟市場で生き残るための多角化戦略です。一方で、これら素材メーカーのような川上から川下への事業展開は、実際には巨額な設備投資や技術の導入、あるいはM&Aの活用など、難易度は高く大きなリスクも伴います。そして何よりも川下に行けば行くほど、消費者ニーズへのキャッチアップが必要です。もちろん、素材メーカーも素材別の組織から用途別の組織に切り替えるなど、より川下に近い事業モデルにも取り組んでいます。とはいえ、川上を主戦場としている素材メーカーがB to C接点で川下の消費者の意識や行動の変化を敏感に感じ取り、商品化していくことには限界があります。

 したがって、こうした川下から一定距離のある企業は、ダイレクトに生活者と接しているB to C型のさまざまな業界の取組みにアンテナを張り巡らせて、間接的に消費者の変化にキャッチアップしようとしています。たとえば、重くて残量も確認できない鉄で覆われた消火器が、年配の方でも容易に持ち運べて残量も確認できる炭素繊維素材の消火器に置き換わり始めようとしています。これは素材メーカーが川下の動向まで広くアンテナを張った結果といえるでしょう。

 では、成熟市場の中で、消費者の意識や行動の変化を感じ取った企業は、どんな取組みをしているのでしょうか?

 そして「ニーズ後追い型企業」は、消費者の行動・意識の変化に気づき反応はじめた企業の取組みを、どんな観点から観察すべきなのでしょうか?

 次回は主要な業界ごとにその変化を見ていきたいと思います。

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