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国内の成熟市場で成長するために

第4回 生活者の意識・行動の変化に反応する

寺川 正浩

 自社と関わりのある人口動態の変化を中心としたミクロ・マクロ環境の整理がおおむねできたら、次はその変化の中で中心となる生活者・消費者の意識や行動がどのようになってきているのかを整理します。簡単そうですが、固定観念を取り払わないとその後の戦略構築を大きくミスリードしていくことになりかねません。

今の「高齢者」とは、どんな意識でどう行動しているのか

 前回のコラムでずいぶんと「高齢者」を連発しましたが、実ははっきりした年齢の定義もなく使っていました。あらためて調べてみると公的機関が行う人口調査の場合では65歳以上を指すようです。しかし、いまや多くの60歳代の方々は自分たちが高齢者、あるいは高齢者手前なんて思ってもいないはずです。アラフィフである私でさえ、中高年と言われたところでピンとこないですし(もちろん"青年"なんて意識はこれっぽっちもありません)、もっと速い記録を出せるだろうと毎日走っていたりするわけです(現実は厳しいですが...)。

 現在の50、60歳代は、従来の同年代と比べて明らかに健康意識が高まっています。若さに対する関心が高いのもその流れなのでしょう。新たなトレンドへの反応も高くなっています。ネット通販の利用率の上昇がもっとも高い世代であることとも大いに関係しているのでしょう。このような生活者を「アクティブシニア」と呼ぶようにもなりました。その一方で高齢化社会の一定数を占める「支援あるいは介護が必要なシニア」についても、意識や行動は以前と変わってきました。

 たとえば、健康状態が万全でなくとも、薬に頼らない体質改善への意識が確実に広がっています。人口動態の変化にあわせてその中心となる生活者の意識や行動も従来とはずいぶんと違ってきています。

 また、高齢化と少子化によって、子供と孫のためにお金を使う第三世代消費もますます活性化しています。最近は見るからに高級そうなベビーカーを街でよく見かけるようになりましたが、高齢化と少子化の両方に目を付けた企業の成功事例ではないでしょうか。

 前回のコラムで紹介した「個食化」も「単身世帯の増加」という人口動態の変化による消費行動の典型的な例です。スーパーマーケットで目にする個食化(お一人さま)向けの商品や売場は、今となっては当たり前の光景ですが、5年前のスーパーマーケットでは、個食化向け商品を展開していた企業とそうでない企業との集客力の差は歴然でした。

 高齢化という人口動態の変化だけをとってみても、これだけの生活者の行動や意識の変化があるわけです。

生活者の意識と行動の変化から潜在ニーズを読み解く

 もうひとつ前回紹介した「都市部人口集中」を取り上げてみましょう。これにより、大都市部では、たとえば半径100m内にある複数のコンビニエンスストア、小型スーパーから買い物者は店舗を選択したり使い分けたりするようになるなど、都市部の狭小化と共に生活スタイルが変わりはじめています。これからコンビニエンスストアは今以上にビッグデータを活用し小商圏エリア単位の売場づくりや品揃えが強化されるでしょうし、さらにはオムニチャネルが進めば高度化した新たなサービスがここから発信されていくのではないでしょうか。

 創造性の高い企業が人口動態の変化に着目し、先立って新たな取組みや工夫を仕掛けることでそれが消費行動の変化に拍車をかけていくわけです。一方、大多数の企業にとっては、この消費行動の変化に敏感に反応し新たな舵を切れるかどうかが成熟市場で勝ち残るための大きな分岐点なのだと思います。

 マクロ環境・ミクロ環境の変化、とくに人口動態の変化に注目し、その変化の中で生活者の意識や行動がどのようになってきているのかを把握することが、成熟市場の中での成長戦略検討の最初のステップです。

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 しかし、これらをゼロベースでひとつずつ検討する必要はありません。新しいことを仕掛けている企業はこういう視点で新しい価値の創造を絶えず指向していますし、ダイレクトに生活者と接しているB to C型の業界に属する企業は、生活者のわずかな変化を敏感に感じ取って、PDCAサイクルを頻度多く回しているのです。

 こうした企業や業界がどういう変化に注目して、どういう人たちのどのような潜在ニーズを刺激しようとしているのかをまずは読み解くことです。読み解く対象は同業である必要はありませんし、シームレス化の成熟市場においてはむしろ同業にこだわっていることこそが着想の広がりを妨げてしまいます。


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