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国内の成熟市場で成長するために

第3回 成熟市場でも商機となり得る環境変化を拾い上げる

寺川 正浩

 成熟市場での自社の戦略を考えるにあたっては、外部環境の変化、すなわちマクロ環境・ミクロ環境の変化の整理から着手していきます。マーケティング戦略立案の手順に則っていけば、まずはPEST分析(Politics:政治、Economy:経済、Society:社会、Technology:技術の側面でマクロ環境から影響を分析)といきたいところですが、ここでは成熟市場に的を絞って話を進めていきます。

少子高齢化といえども世帯数や共働き世帯は増加している

 成熟市場とは消費者にモノがいきわたってしまった状態、消費者が増えない状態、そして消費者が買わない状態ですから、成熟市場における戦略を考えるに当たっては、人口動態の大きな変化をおさえておく必要があります。成熟市場での人口動態の変化と言えば、「人口減少」であり「少子化」「高齢化」でしょう。人口減少ゆえの成熟市場なので、これらはおさえておくべき変化以前の事象とも言えますが、ここを起点に事象の中身やそれに伴う副次的な変化を捉えていくことが大事になります。企業にとっては人口減少や少子化・高齢化は逆風である一方で、捉え方や見方を変えればあらゆるところに機会が潜んでいるからです。

 少子化・高齢化により、労働力不足がすでに社会問題となっています。その傍ら、高齢者は消費市場でのプレゼンスを高めていっており、中でも60歳代はこれからの消費の担い手とまで言われています。事実、ネット通販の利用の上昇率はこの年代がもっとも伸張しているようです。もちろん高齢化に商機を見出した企業の、高齢者をターゲットとした商品やサービスの充実がその加速を高めている要因でもあります。

 高齢化、すなわち高齢者が増えていくことに対応する高齢者向けニーズの探索と戦略立案は、最終的に採用されるかどうかは別として、どの企業も当然検討しています。その際に、高齢化に伴って起こっている副次的な環境変化もきちんと拾い上げて検討の俎上に載せることができるかどうかが競争優位となる戦略の重要な要件と言えるでしょう。

 人口減少、少子高齢化の中で、二人以上世帯が減り、世帯当たりの消費がどんどん縮小していく状況にあります。しかし単身世帯は増加しているのです。世帯当たりの消費ばかりに目を向けるのではなく、単身世帯数の増加に目を向けて各スーパーマーケットは生鮮売場や惣菜売場での個食化(お一人さま)向け商品を充実させてきました。今では、確実にその需要を創出し、一定の売上を確保しています。

 もう少し世帯数で切り込んでいくと、二人以上の世帯は減っているものの、総世帯数は増え続けていることもわかります。三井トラスト基礎研究所のデータによると、この20年間で3500万の世帯数が、5000万世帯数まで膨れ上がっているとのこと。商機の糸口・ヒントは、たとえばここにもあります。大衆医薬品や歯磨きなど世帯単位で買いやすい日用品を扱うライオンは、成熟した国内でも販売数量が伸びた要因を世帯数増加による市場拡大であると、先日の新聞で解析していました。

 加えて世帯の中身に注目すると、共働き世帯数が年々増加しています。総務庁の労働力調査によれば、全世帯に占める共働き夫婦の割合は2割を占めています。もうひとつ階層を落として細かく見ていくと、その中でも子供のいる共働き世帯数の伸びが顕著であることもわかります。「お金はあるが時間がない」と感じている世帯が増えているのではないでしょうか。今まさに待機児童の問題を抱えている層ですよね。

 不安要素だらけの人口減少、少子化・高齢化ではありますが、人口増減を「世帯数」で眺めたり、「共働き」や「子供のいる共働き」といったような属性で切り込むことでチャンスのとっかかりが見えたりするわけです。

東京五輪の年、東京の人口は過去最大に 消費支出もピークを迎える

 少し視点を変えて今度はエリア別に切り込むと、都市部においては人口が増加していることもわかります。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2020年は東京都が過去最大の人口規模1335万人になるということです。郊外でしか目にしなかったホームセンターを首都圏で目にすることが増えてきました。ローカル地区で集中的に出店するドミナント戦略で成長してきたホームセンターの各企業が、ここ数年は首都圏進出の動きが一番激しいというのは、おそらくこういう理由からなのでしょう。

 ちなみに、総務省によると日本の人口のピークは2008年で、そこから人口減少が今日まで続いているとのことです。そして、人口減少のカーブにあわせて消費支出も同じ奇跡をたどっているかというとどうやらそうでもないようです。大和総研の家計消費推計によると、消費支出については現在も伸び続けており、そのピークは2020年頃と予測しています。人口は減少しているというのに2010年比で約5%の増加だそうです。面白いですね。つまり人口の増減に対して消費の増減は比較的穏やかに、あるいは一定のタイムラグをもって推移していると捉えてよいのかもしれません。

 消費支出が右肩下がりに転じるまで、各企業はもうしばらく時間があるということです。消費支出の減少がはじまれば、各企業の投資も抑制され、守りの姿勢に変わっていくのは必至です。それまでに攻めの成長戦略を描いて実行できるかどうかが重要になります。2020年までの3ヵ年の戦略はこれからの企業の将来を左右すると言っていいほど重要になっていくはずです。

 成熟市場における人口動態の変化は、企業にとって逆風となるような事象がまず飛び込んできますが、その中から商機となりうる事象をどう拾い上げてくるか――ここが重要なポイントです。

 次回はこうした外部環境変化の中で、生活者・消費者の意識や行動がどのようになってきているかを整理していきます。


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