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第6回 「評価の納得性」向上に向けて工夫できること

 前回から取り上げている評価制度については、制度そのものに加えて、制度の運用での問題が指摘されることが多い。たとえば「評価者によって評価がばらついている」「評価基準があいまい」などの声がその代表である。いわゆる評価の納得性に関わる指摘である。今回はこのテーマを取り上げてみたい。

 なお、コンサルティングの場面でも、納得性については頻繁に話題になる。納得性に関わる要因として、評価結果に対することのほかに、評価結果を反映した処遇(給与・賞与水準、昇給幅、昇降格の運用等)、上司のマネジメント・スタイル、上司や他メンバーとのコミュニケーションの状態など、評価制度そのもの以外の要因も関わっていることが多い。その意味で、評価の納得性は職場のマネジメントのあり方という点からも検討する必要があるが、本コラムは人事制度をテーマとしているので、その部分に関わることを述べていくことにする。

運用可能な仕組みを設計し、制度内容を社員へ理解・浸透させる

 人事評価の運用は難しいものである。評価者が被評価者の実績・行動を具体的に把握することは制度運用上大事なポイントであるが、四六時中評価者の近くで被評価者が仕事をしているわけではないので、被評価者のすべての実績・行動を把握することは不可能である。つまり、評価者は(できるだけ部下を見る努力をすることが不可欠であるが)被評価者の限られた情報に基づいて評価を実施することになる。また、評価は評価者の判断によって決まるので、どうしてもバラツキに関わる議論は起きるのである。

 可能なかぎり納得性の高い制度運用を目指すために人事担当者が努力できることの1つは、仕組みそのものを運用可能なものにすることである。前回も触れたが、評価項目の構造や数が頭に入りやすいものでないと運用できない。評価者は自分の目や耳で聴いた情報に基づいて評価を行うが、そこで得た情報を部下への指導・育成に活用するために、いくつかの視点に分けて部下を捉える必要がある。

 その分け方のガイドとなるものが評価項目である。各項目が仕事のどの点を取り上げているのかがわかりやすいこと、また(評価は日常での部下の実績・行動に基づいて行うものなので)項目が頭に入っていて、日常からそのような視点で部下を捉えられるようにすることを考慮した仕組みでなければならない。論理的に整理された内容でも、区分して判断できない、数が多くて覚えきれない仕組みでは意味がない。評価項目は、あれこれ網羅しようというよりは、会社から見て社員の実績・行動で大事にすることは何か、という視点を起点に、その内容をわかりやすい(評価者が判断可能な)構造にすることが重要である。

 評価制度の内容(評価項目および評価尺度と評語、評価対象期間、評価者体系、評価の手順、評価結果の処遇への反映方法など)や運用ルール・運用ガイド(社員からの質問などを基に設定することも多い)を、社員が十分理解していることも必要である。自分勝手な見方・解釈ではなく、会社の仕組みである評価項目や評価尺度に沿った評価をしている、あるいは各種面談をきちんと実施しているなど、制度内容・手順に沿って実施されていなければならない。また、相対分布の目安を設定・運用している程度や範囲についての理解・浸透を図ることも大切である。

 多くの会社では、一次評価は絶対評価を行う(絶対評価:等級への期待に基づく評価。一次評価は評価の目的である人材育成につなげるために、期待されていることがどの程度できているかを確認するために絶対評価の考え方を取る)。二次評価や最終評価の段階では、相対分布の目安を設定し、評価を決定している(相対分布の目安は処遇の原資枠からはみ出さないように、評価結果に基づく配分を行うために設定する。なお、相対分布は被評価者の人数が多い場合などは一次評価の段階で設定することもある)。

 このような手順の中で、一次評価者が二次評価者に評価を修正された場合に「相対評価で修正された」と言われることが多いが、評価が修正される場合には、甘辛調整(評価基準の修正)と相対分布に基づく修正の2つがあり、必ずしも相対分布による修正ではないことがある(二次評価者はとくに甘辛調整を行う場合は、一次評価者への修正理由の説明をすることが大事になる。評価基準を共有する場となるからである)。

 このような仕組み・運用ルールが社員に理解・浸透し、実践されていることが納得性の基盤となる。

評価について議論を積み重ねていく

 納得性の向上を図るためには、評価者(および被評価者)の判断のバラツキを可能な限りなくしていこうという取組みも不可欠である。この点については、各社で評価者研修、評価結果の分析とフィードバックなどを通じて取り組まれている。

 評価手順の中で評価者会議などを設定し、お互いの評価根拠を確認し合う場面を組み込むこともある。そのような中、評価基準について話題になることが多い(あいまい、わからない、など)。評価基準となるものは、等級定義(等級ごとの期待を示したもの)および評価尺度と評語(たとえばS・A・B・C・Dといった評価を示す記号とその意味)になる。これらに記載されていることは抽象的であると指摘されることも多いが、仕組みとしては全社員をカバーしないといけないため必然的に全体を網羅する表現にならざるを得ない側面もある(職種や部門ごとに設定するとそれはそれで全社の横並び議論(有利不利感)が起こる)。

 このような社員の求めている評価基準の認識、つまりその基準を当てはめれば、AかBか判断できるといった物差しを求めていることについて、違和感を感じることがある。もちろん物差しがほしい気持ちも理解できるが、一人ひとりが異なる仕事を異なる環境で実施している会社の中で、一定範囲で共通に適用できる物差しなどが存在するのであろうか。

 たとえば、陸上競技の100m走のように1〜9レーンまで同じ条件で競うような場合であれば、かかった時間という物差しで優劣を評価できるが、会社はいわば1レーンは上り坂、2レーンは下り坂、3レーンは途中に障害物あり...といったような状況である。そのような状況ではタイムという物差しだけで判断することは適切ではない。同じ条件であればシンプルな評価基準でよいが、職場ではそうはいかない。また、社員それぞれに個性があり、いろいろな評価項目に沿って判断しても、また1つの評価項目を判断する際にも「できていること・できていないこと」はそれぞれ異なる。評価はさまざまな実績・行動を包括的に判断して行うものであり、それゆえにさまざまなことを把握できる立場にいる、部下にとってもっとも身近な上司が一次評価者として位置付けられる(なお、包括的は判断を納得してもらうためには、具体的な判断材料を提示して説明する必要はある)。

 評価は、結局のところ、上司としてのマネジメント上の判断そのものになる。つまり、評価対象期間全体を見て、評価項目ごとに、あるいは全体評価として、期待をどの程度「満たしていた・満たしていなかった」という判断になる。その部下をほめてよいのか、改善を促すのかを判断して、その意味を記号で表現すること(ほめるのであればSやA、指導をして改善を促すのであればCやD)が評価者の役割である。その判断は、評価者同士で(また評価者と被評価者で)会社の期待と毎期の具体的な部下の状況を確認し合い、ウチの会社として「〜のような部下をどう見るか」という議論を積み重ねることで共有される。

 このような議論を踏まえ、評価者は(また被評価者も)、自身の判断した評価理由を、仕組みの内容・考え方に沿って(等級定義、評価項目の内容などを確認しながら)、評価対象期間の代表的で(重要性や工数等の点から)具体的な実績・行動を提示して説明できるようになることを目指し、努力していくことが重要である。

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