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第5回 改めて評価制度の意味を考える

 人事制度は、日々の職場でのマネジメントにつながる仕組みである。たとえば、等級制度で示す段階的な社員への期待が、上司から見れば部下の育成方針の、また社員一人ひとりから見れば、その会社での自身の成長目標のガイドラインになる。
 人事制度の中でもっとも職場のマネジメントに影響を与える仕組みは評価制度である。上司(評価者)を前に部下(被評価者)自身が自らの仕事ぶりに向き合い、診断し共有する場が制度運用の中に組み込まれているからである。本コラムでは、職場のマネジメントにつながるという視点を踏まえ、改めて評価制度の意味を考えてみたい。

評価制度の本当の意味とは

 「評価制度の目的は何か?」これは評価者研修の冒頭で必ず触れる問いである。
 この問いに対する多くの受講者は「処遇を決定するための仕組みである」と捉えている。この側面は否定するものではなく、間違いなく目的の1つである。しかし、それだけでもない。
 仮に処遇を決めるためだけの評価制度であれば、どのような仕組みがよいだろうか。そのためには、社員の業務実績・行動を身近で把握しているマネジャー層がその内容を整理し、会社の中で社員の処遇を決める立場の人(経営層や人事担当者など)にその情報を提供しさえすれば、一人ひとりの処遇は決められる。自己評価や上司と部下との面談などは不要となる。
 以前は自己評価や面談を行っていない会社に出会うこともあったが、今ではそのような会社はほとんどなく、自己評価や面談などが組み込まれている。そのような仕組み・運用手順になった理由は、評価することにより、一人ひとりの現状を把握し、今後の課題を設定する機会にしよう、つまり人材育成・成長につなげようという目的のためである。
 人材育成・成長のためには、上司が現状と課題を認識しているだけではその課題の解決に向けた行動が引き起こせない。そこで、まずはどこが期待を満たし、どこが満たしていないか、また今後どのような課題があるかを自らが確認する自己評価の仕組みが組み込まれ、さらには本人と上司の認識を共有する場としての面談が設定された。また、近年では、目標による管理の仕組みを評価制度と連動させて運用するケースも多くなっている。これには制度運用を通じて(とくに目標設定)会社や部門の方針の理解・浸透を図るという目的がある。目標設定の場を、今までの仕事の内容ややり方をそのまま行っていくのではなく、会社や部門の置かれている環境を踏まえ、今の仕事の内容・やり方が本当に良いのかについて、上司と部下が考える機会として活用してほしいということである。
 このように評価制度は処遇を決定することだけが目的ではなく、人材育成・成長や会社・部門方針の理解・浸透という日常の職場のマネジメントに活用する目的があることを、改めて確認しておきたい(これに伴い、部下一人ひとりの評価シートへのコメント記入や各種面談の実施などでマネジャーの実務負荷が増大するという側面はあるが、その機会を部下一人ひとりのマネジメント・ポイントを確認する場として活用することがマネジャーには求められている)。

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評価制度を構成するコンテンツの意味

 上記のように、日常の職場のマネジメントに影響を与える仕組みとして評価制度をとらえたとき、評価制度を構成するコンテンツの意味も再認識できる。
 たとえば、評価項目にはなぜいろいろな項目があるか。評価項目は会社として社員の何を見たいのかを表現したものである。多くの会社では、業務実績評価と行動(能力、取組み姿勢)評価の2つの大きな項目がある。これらの項目を通じて、1つは、その時々でどのような業務実績をあげたか、もう1つは(とくに日本の会社では継続的な雇用関係を前提としているので)将来にわたり安定して優れた業務実績をあげるために必要な基盤として必要な能力や取組み姿勢などを身に付けているか、を見るということである。さらに、業務実績評価や行動評価の中にいくつかの評価項目が設定されている。これにより、各人の現状と課題を設定しやすくしている。
 評価を人材育成に機能させるためには、「Aさんは全体的に優れている(あるいはもの足りない)」という全体ではなく、「Aさんはこの部分は優れているが、この部分はもの足りない」というようにその人をいろいろな視点から分けて把握することが必要となる(ちなみに、処遇を決定するためだけであれば、全体の判断でも可能である)。つまり、部下の強み・弱みに応じた育成・成長ポイントの設定を行うために、多様な評価項目が設定されているのである(なお、日常でのマネジメントに活用するという意味では、頭の中に入りやすい評価項目の構造や数であることが不可欠である。シートを見ないと項目を思い出せない、あるいは数が多すぎてそれぞれの項目の区別が付かないといった仕組みでは、評価項目をマネジメント上意味あるものとして活用できない)。

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 また、仕組み上は評価対象期間が設定される(半年間、1年間など)。評価対象期間は、人事制度全体との関係で言えば、昇給、賞与また昇格などに反映する時期を考慮して設定され、評価は対象期間中の業務実績・行動に基づいて行うことになる。この評価対象期間もマネジメントに活用することができる。それは、部下の変化を確認するということである。
 実際には、とくに上司と部下が何年も同じ職場で仕事をしていると、上司から見た部下のイメージが固まってくる傾向がある。「Aという部下は○○だ」と断言する上司の方もいるが、人は(コロコロ変わるものでもないとはいえ)変わることもある。その部分が、前期からの成長あるいは後退部分であり、そのような変化をきちんと認め、次への対策のステップとすることがマネジメントの1つの側面としてある。評価対象期間を意識し評価を行うことで、その期間中で何があったかを把握し、以前との変化の有無を確認できる(なお評価の判断材料としては、変化したことだけでなく、変化しなかったことも含まれる)。
 その他、自己評価や面談などにも前述したようなマネジメント(セルフ・マネジメント含む)上の意味がある。評価制度については、運用の仕方(納得性の向上に向けてなど)に対する問題意識も高いが、改めて仕組みそのものの意味にも向かい合うことも必要である。

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